題 名複数人による知識創造活動を行う会議に及ぼす室内音環境の影響

発行日
2015年5月
投稿日
2018.02.21
発表者名
辻村壮平
所 属
茨城大学 工学部
キーワード
建築
要 約

本論文は、別記の研究背景に対して、複数人による組織的な知識創造活動と音環境の関係に着目した先駆的な取り組みであり、複数人で知識創造活動を行うのに望ましいオフィスの音環境を明らかにすることを目的としたものである。
この論文では、会議内容との関連性まで考慮して会議のしやすさに及ぼす音環境の影響を検討している。心理的要因の分析には重回帰分析を用いたが、従来の予測モデル作成という本来の用法とは異なり、因果関係の推論手法としてマルチレベル分析を建築学分野において初めて適用した。さらに、因果分析に回帰分析を用いるための枠組みを理論的に整理し、マルチレベル分析の指針についても具体的に言及しており、様々な心理的要因に対してもこの手法の適用を可能にした萌芽性も高いものである。
データの分析に際しては、まず探索的に1次の項のみのモデル化を行い、有意な効果を持つ要因については2次の項の追加を検討して、評価平均値で中心化した形の2次式で予測式を構成する、という緻密な分析を行っている。
これにより示された本論文の研究成果は、複数人での知識創造活動における「会議のしやすさ」の因果モデルを明らかにするに止まらず、心理量と物理量との関係にまで言及し、複数人で知識創造活動を行う会議では「静かすぎない」環境が効率的な議論に繋がる可能性を示している。そのレベルは静かな印象を損なわない50 dB未満で、活気を感じやすい45 dB以上の音環境で、このレベルの範囲では「会話のしやすさ」の評価が高くなり、「会議しやすい」という印象に繋がることを明らかにした。

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プロフィール
辻村壮平 近年の知識創造社会の出現に伴い、知識創造の価値の割合が高い商品やサービスを提供する産業の生産額が日本の経済全体の大部分を占めていることから、わが国においても知的生産性や感性価値の創造活動の向上に資するオフィス環境の整備が望まれている。オフィスワーカーの創造性を高め、企業の組織知を強化することが不可欠であるが、集団で取り組む知識創造活動と音環境の関係についてはこれまでほとんど議論されてこなかった。近年のオフィスの形態に鑑みて、知識創造社会では、集団で行う知識創造活動やワーカーのコミュニケーションの活性化について議論が必要な段階であった。