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健康診断オプションの腫瘍マーカー【第1回】腫瘍マーカーはどう利用すべき

佐藤 浩昭(さとう ひろあき) 筑波大学 水戸地域医療教育センター 呼吸器内科

癌は恐ろしい病気だ。出来ればなりたくないと、誰もが思っているだろう。早期発見、早期治療ができるように、検診や人間ドックを受診されている方も多い。今回のテーマは、診療や検診で登場する「腫瘍マーカー」について。測定結果で異常が出ていた際には、患者にどのように伝えようか、医師も悩んでいるそうだ。腫瘍マーカーとの付き合い方を考えるシリーズ連載を、専門家に執筆いただいた。

 腫瘍マーカーと聞くと一般の方々はどのようなイメージをお持ちになるでしょうか。
悪性腫瘍が疑われた際に健康保険で検査するあの検査です。もちろん保険点数がついており、検査をすれば検査代を請求され、きっちり支払っていただいている検査です。多くは血液を用いての検査ですので、体にも財布にも痛い思いをして調べる検査です。
 
 ここで知っておきたいことは多くの腫瘍マーカーでは、偽陽性、偽陰性が存在するということです。つまり、癌でないにもかかわらず腫瘍マーカーが高い値を示したり、反対に癌であるにも関わらず腫瘍マーカーは正常であったりすることがある検査であるということです。また肺癌を例に挙げると早期診断に役立つ腫瘍マーカーは現時点では存在しないということも事実です。
 
 そんな腫瘍マーカーですが、高い値を示している患者では、治療経過に併せて変動する方が存在するため、わざわざ健康保険でカバーして臨床の場で用いられているということです。以前は、出来高払いのもとで多くの腫瘍マーカーが測定された時期もありましたが、現在ではいくつの腫瘍マーカーを測定しても支払いはいくらまでということになっており、多くの腫瘍マーカーを検査すると医療機関側の持ち出しになる仕組みとなっています。
 
 さて、昨今では、この腫瘍マーカーが健康診断のオプションに組み込まれていることが多々あり、測定したら高い値が出たということで病院においでになる方が少なくありません。こちらは健康診断ですので、健康保険適応外扱いです。
 
 多くの腫瘍マーカーはELISA法という方法を基本にして測定され、測定結果が数値で出てきます。また偽陽性を「偽陽性」だとする追加の検査がない腫瘍マーカーがないといったら、皆さんはどのように思われますでしょうか。消化器ならば胃カメラ、CT、大腸ファーバー検査を実施し、肺であればCTを撮影しても癌が見つからなかった場合、偽陽性なのか、癌が発見できなかったのか悩み続けなければなりません。
 
 一度の検査で癌が発見されずこれらの検査を繰り返した場合、医療機関の収益は上がるかもしれませんが、診療している医師にとってもとてもストレスフルな状況となります。勧められるままに腫瘍マーカーを測定し、癌が治療できる状態で発見された際には不幸中の幸いと考えても良いのかもしれませんが、偽陽性、偽陰性で一喜一憂する毎日は決して楽しいものではないと思います。
 
 検査は遺伝子レベルという時代ですが、たぶんこの領域には企業の方からするとビジネスチャンスもあるのかも知れません。少なくとも偽陽性を鑑別する方法が確立することを切に願っています。可能ならどの臓器に関連する腫瘍マーカーの上昇なのか判明するととてもありがたいと思います。

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佐藤 浩昭(さとう ひろあき) 筑波大学 水戸地域医療教育センター 呼吸器内科 1984年筑波大学医学専門学群卒 2009年より筑波大学水戸地域医療教育センター 教授 日本内科学会認定総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医