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グローバル化時代と英語力【第2回】――英語は何が難しいのか(1)

中田 康行 (なかた やすゆき) 芦屋大学 臨床教育学部

英会話力とは何かという問題から説き起こし、英語学習を難しく思わせる同形異品詞、同形多義性、同形多機能などの問題を具体的に紹介し、文(法)構造への習熟の重要性を示唆した。また、英語の聞き取りとの関連で、聞き取りにくい音、さらに聞き取り力のベースには文構造把握力と習熟が深くかかわっていることを論じた。

1 英語には同形異品詞が多い

 例えば、教師が黒板に単語を書いて「orderの意味は何ですか」などと聞いたりすることはよくある。もちろん、授業の教科書に出て来る新出単語といった前提があるから答えられる、といった事情はある。
 
 しかし、orderの意味を言うように、と言われても、全く無条件で指示された場合には答えようがない。なぜなら、orderという語は名詞、動詞という具合に同じ綴り(同形)でありながら品詞が異なる(異品詞)からである。英語の膨大な数の単語はこの類のものなのである。
 
 orderの名詞を考えた場合でさえ「順序、順番」、「秩序、整然」、「命令、指示」、「階層」、「注文、オーダー」、「勲章」、「(カトリックの)修道師会」等々、多様な意味(むしろ「語義」)がある。また、動詞を考えても多様な意味があるから、実際の文や発話の中に単語が使われて初めてその意味が確認されるのである。
 

2 同形異品詞の用法の具体例

 1で示唆した問題を考察するのに、以下の二例を取り上げてみよう。
 
1a. Where do you bank?
1b. The dark grey banks of cloud promised a heavy rainy storm.
2a. Of the six sisters, only three remain; the rest are dead.
2b. Her remains lie in the churchyard in the small village.

 
 1a.の場合のbankは動詞で、「銀行に金を預ける(引き出す)」といった意味だが、1b.の場合bankは名詞で「積み重なるもの」といったようあ意味である。2a,の場合のremainは「残る」という意味の動詞だが、2b.の場合には複数形で「遺骸、亡骸」といった意味の名詞である。(複数形で用いる)。
 
 以上に類する同形異品詞の例は普通に見られるものであるが、以下に類例を幾つか挙げるが、日本語の意味も確認しながら見て頂きたい。
 
3a. We had a coffee break in the concert.
   / コンサートの途中でコーヒー(の)休憩があった。(break 名詞)
3b. John broke his wristwatch by dropping it.
   / ジョンは腕時計を落として壊した。(break 動詞)
4a. They’ll found a business company next year.
   / 彼らは来年、商社を設立するだろう。(found 動詞)
4b. We found the lost small girl hiding in the forest.
   / 私たちは、姿が見えなくなった少女が森に隠れているとわかった。(find 動詞)
5a. The high wall guards the palace from burglars.
   / 高い壁が宮殿を強盗から守っています。(guard 動詞)
5b. There were some soldiers on guard at the gate of the castle.
   / 城門のところに見張りの兵士が何人かいました。(guard 名詞)
 
 以上の例に類するものは幾らでも見い出される。このように数多くの同形異品詞の存在が英語の主要な特徴の一つであり、それが英語を難しく感じさせる主原因の一端を構成している。
 

3 単語の多義性(多様な意味)

 語義的意味と文脈的意味を確認するに当たり、具体例を幾つか検討したい。英語が分かるということがどういうことなのかを以下の例文を考えながら解説してみようと思う。
 
6a. The female doctor observed cancer in his left lung.
   / 女医は彼の左肺に癌を観察した。
6b. It’s important that you observe the expiry date as it is illegal to stay in America after that date.
   / あなた(方)は失効日を遵守することが重要だが、それはその日付けを越えてアメリカに滞在することが違法だからである。
7a. John asked me, “Did you come here yesterday?”
   / ジョンは私に「機昨日こに来ましたか」と尋ねた。
7b. George asked her to come here again.
   / ジョージは彼女にもう一度ここに来るように依頼した。
 
 6a.と6b.に関しては、先ずこれら二文に現れるobserveという動詞の意味が異なるということを一見して判断できる必要がある。6a.では「観察する」という意味だが、6b.では「遵守する」という意味である。そのことは対応する日本語訳からも示されている。
 7a.、7b.も同様にaskという動詞の多義性が問題であった。このような単語の多義性にも英語を難しいと思わせる原因があるのではないだろうか。 英語が難しいのは単語に幾つか(場合によっては数多く)の語義(意味)があり、それを文脈に照らして適切に選択しなければならないという事情が存在するからである。

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中田 康行 (なかた やすゆき) 芦屋大学 臨床教育学部 40年以上にわたり大学の学部・大学院で英語学(統語論、意味論、さらに文法理論)を中心に教鞭をとる。 最近は、社会言語学、言語習得理論、語用論を中心に言語の多様な問題を研究している。 英語教育の領域をも研究の中に組み入れた最近の著述に『応用英語学の研究』(2019)、『英語実践力獲得への道』(2016)などがある。