連載
一覧歯科医療の将来 ~歯科技工士の現在と将来~【第2回】
松根 健介 (まつね けんすけ) 日本大学松戸歯学部 口腔健康科学講座
なぜ、歯科技工士をやめてしまうのか
歯科技工士を続ける上での問題点は、1.低価格・低賃金、2.長時間労働、3.社会的地位の低さ、だそうです。
歯科技工士は日本どこの県でもそうだと思いますが、精密な技術を必要とする仕事にもかかわらず、賃金が少ない、時間的拘束が大きいなど、様々な条件が重なり、続ける人が少ない職業のひとつです。追い打ちをかけるように、働き方改革で、労働時間の短縮、賃金のさらなる低下を認めます。どちらにしても、保険診療の報酬が抑制される中、あおりを受けてしまうのが、歯科技工士であると考えられます。地方の歯科技工士の話を聞くと、個人の技工所は量をこなす必要がある為、新規開拓の歯科医院と契約を結ぶ必要があり、既存の歯科医院においては、歯科医院長と技工料金についての相談事をよく受けるという事を耳にします。
また、技工士は患者様と直接接する事が少なく、患者様の直接的な評価が分かり難いのが、今の技工士の現実だと思います。歯科医院と歯科技工所がうまくいっていればいいですが、いずれにしても個々の患者様に合わせた技工物を作製するために、長い製作時間が必要とされます。約束の時間に依頼したものを完成させ、装着できるのが当たり前の世界です。
平成28年、歯科技工士の従事者数は34,640人です。現在、約16,000件の歯科技工所は、歯科技工士一人で行っているところが非常に多く、その数は増加傾向にあります。その中でも50歳以上の者が増加傾向を示し、逆に29歳未満が減ってきており働く若い人が少なくなっているのが心配です。年収が低い時代に専門性を獲得するために、10年程かけて習得を行いますが、その間に歯科技工士という職に見切りをつけてしまうのではないでしょうか。歯科技工士の資格を持っているのに免許を取り直して世間で話題になっているもう一つの厳しいと言われている介護士などになったりする話をよく聞きます。これは時間的束縛や社会的地位の低さ、そして直接的に感謝される事が少ない現状が原因ではないかと思います。
歯科医学教育白書2017年版によると大学病院の常勤歯科技工士数の平均は国公立で7名、私立で8名であり、常勤が10名以上なのは29校中4施設のみであり、大学であっても少ないのが現状です。機械が歯科技工士の代わりに仕事をやってくれる、と言う話をよく耳にしますが、最終的に技工物がオーダーメイドの仕事である以上、患者様にあった適切な技工物を作製するために、技工士さんの調整が必ず必要になってきます。今後、この様な事が続くと10年後、20年後の歯科技工士は悲惨な事になってしまうのではないでしょうか。全員とは言えませんが、腕のいい歯科技工士の方が10年後20年後の自分を想像してみると、歯科技工は大好きだけれども低賃金のため、今よりも良い夢を描くことができない、というのが現実だと思います。将来に良い歯科技工士像を描ければ歯科技工士を続けていけるのではないでしょうか。
増える人手不足倒産…「社員を軽視している会社」の断末魔(幻冬舎ゴールドオンライン 9/15(日)11:00)で描かれている中小企業の社員の姿は歯科技工士の姿と被ってしまう、いやむしろ歯科技工士の世界のほうが悪くなっていると思うのは自分だけではないのかもしれません。
■ 参考文献
・厚生労働省:第4回歯科技工士の養成・確保に関する検討会(平成30年11月19日)「歯科技工士の勤務状況等」
・日本歯科技工士会:歯科技工士とは
(http://sp.nichigi.or.jp/about_shikagikoshi/shikagikoshi.html)
・全国保険医団体連合会:日本の歯科技工を守ろう.月刊保団連1254.1-12.2018
・日本歯科医学教育学会:歯科医学教育白書2017年度版(2015-2017年).155-187.2019