連載

一覧

人生100年時代に不可欠なプロティアン・キャリアとは?【第2回】

田中 研之輔(たなか けんのすけ) 法政大学 キャリアデザイン学部 教授

終身雇用社会が崩れつつある現代。自ら変容し、キャリア戦略を練ることは重要だ。 「プロティアン・キャリア」の考え方を紹介しながら、自分らしく生きる術を伝授するシリーズ連載。

そもそも、キャリアとは何か?

 まず、キャリアという概念について整理しておこう。キャリアとは、個々人がこれまで経験してきた「軌跡」。軌跡といっても、通ってきた道に刻まれた痕跡というだけでなく、イメージで言うなら立体的なもの。組織内での昇進や昇格、資格や達成など組織の中のキャリアとは、キャリアの狭義の理解にとどまる。
 
 例えば、大学を卒業して入社した組織から、違う組織に移っていく。私たちの人生では、これまでの一つの企業の中での昇進や昇給によって上昇していく直線的なキャリアに、あてはまらない経路をたどる人を多くみるようになった。
 
 転職してうまくいく場合、うまくいかない場合。1つの組織で働き続けるとしても、思い通りにいかずに、昇進できなかったり、会社の事業が芳しくなく減給されることも大いにありうる。
 
 つまり、いまの働き方にフィットするのは、直線的なキャリアモデルではない。棒高跳びの棒のように、ぐっと力をため込んである時に、その「溜め」から力を放出していくようなキャリアモデルが必要なのだ。
 
 このように考えると、1つの組織の中で、昇進や昇格という客観的な評価を受けなくても、その時は、キャリア形成の「溜め」だと捉えることができる。その点で、「キャリア=職業経験」と狭義に捉えているわけではなく、職業経験のほかにも様々なライフイベントなども含んだ時間的な経過、個々人の歴史性を含む、広義の意味で、「キャリア」という言葉を用いている。
 
 つまり、キャリアは「結果」ではない。キャリアとは個々人が「何らかの継続経験」を通じて「能力」を蓄積していく「過程」を意味する。これまでの経験の「歴史」でありながら、これからの「未来」でもある。
 
 まとめると、キャリアとは、これまで生きてきた足跡(結果)であり、生き方を客観的・相対的に分析する(現在)ことであり、これからの生き方を構想していく(未来)羅針盤なのだ。
 
 このように理解をするので、「キャリア」と「スキル」では意味が異なる。「キャリア」のある段階で習得されるのが「スキル」だと認識するとわかりやすい。広義の「キャリア」の中で、技能として形成されるものが「スキル」になる。
 

「The Career is Dead」
 ―伝統的なキャリアとプロティアン・キャリア

 それでは、プロティアン・キャリアについて理解を深めていく。
 
 「The Career is Dead」
 
 これは1996年にダグラス・ホール教授が出版した書籍のタイトル。「キャリアは死んだ。」この言葉には、従来型のキャリアはなくなり、これからは違うキャリアを模索する必要がある、そんな思いが込められている。
 
 これまで想定されていた従来型のキャリアとは、昇進、昇格、収入、地位、権力、社会的安定、これらが右肩上がりに上昇・増幅していくモデルだった。
 

 
 そうした従来型のキャリアとは、全く違う捉え方をするのがプロティアン・キャリアという考え方だ。ダグラス・ホール教授のプロティアン・キャリアの定義を抑えておく。
 
  「プロティアン・キャリアとは、組織の中よりもむしろ
   個人によって形成されるものであり、時代と共に個人の
   必要なものに見合うように変更されるものである」
  (ダグラス・ホール 1976 『プロティアン・キャリア』(2015 p.22)
 
 この定義のポイントをまとめると、次の2つになる。
 
1)キャリアというのは組織の中ではなくて、個人によって形成される
2)キャリアというのは変化に応じて、個人にとって必要なものに変更することができる

Pocket
LINEで送る

田中 研之輔(たなか けんのすけ) 法政大学 キャリアデザイン学部 教授 博士(社会学)。専門:キャリア論 一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。大学と企業をつなぐ連携プロジェクトを数多く手がける。著書23冊。『辞める研修 辞めない研修―新人育成の組織エスノグラフィー』。『先生は教えてくれない大学のトリセツ』、『先生は教えてくれない就活のトリセツ』、『覚醒せよ、わが身体。』、『丼家の経営』等。企業の取締役、社外顧問を14社歴任。最新著に『プロティアン』(日経BP)