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ゴルフ市場再興に向けたマーケティング戦略【第3回】

北 徹朗 (きた てつろう) 武蔵野美術大学准教授

1990年代前半に約1200万人を超えていたゴルフ人口は今日半減していることが複数の調査で明らかにされている。
ゴルフ人口の縮小は、ピーク時からのゴルフ関連市場規模の縮小とイコールの関係になっている。
・ゴルフ場市場(1兆9610億円→9010億円)
・ゴルフ用品市場(6260億円→3400億円)
・ゴルフ練習場市場(3140億円→1290億円)
この連載では、「ゴルフ市場再興に向けたマーケティング戦略」と題して、筆者の研究から得られた知見を紹介する。

第3回:女性ゴルファーの増加・定着に向けた戦略

 

若い女性の運動・スポーツ実施率は極めて低い

ゴルフはその殆どが歩く運動(ボールを打っている時間は2~3分)であることから、健康づくりのために推奨されてきた。
文部科学省の「スポーツ基本計画」(2012年)によれば、運動・スポーツを年に1回も行わない成人の割合は男性よりも概ね女性の方が高いとされている。同じく、文部科学省の「体力・スポーツに関する世論調査」(2013年)でも、日本人のスポーツ実施率は1989年以降緩やかな上昇傾向にあるものの、20代と30代の女性においては、他の年代に比べ実施率が低いことが示されている。

若い女性の間でブームが報じられるスポーツ

筆者らは、前述の背景を踏まえ、2014年~2015年にかけて、笹川スポーツ財団の研究助成を得て調査を実施している。当時、「山ガール」などの用語に代表されるように、スポーツ実施率が低いとされる20代~30代の女性において、最近一部のスポーツで「ブーム」が報じられることがあった。
 
こうした情報を検索した結果、当時、若年女性の間でブームとされたスポーツとして、「登山」、「ランニング」、「ヨガ」、「ピラティス」、そして「ゴルフ」が抽出された。これらのスポーツに現在実際に取り組んでいる女性(25~39歳の1,000名)に対して、そのスポーツを開始したきっかけや、継続・再開の要因について調査を実施している。以下、調査結果の概略をご紹介したい。

「外発的な動機」が“きっかけ”のスポーツはゴルフだけ

これらのスポーツを開始したきっかけについて、種目別に集計したところ、「登山」(57.3%)、「ランニング」(49.0%)、「ヨガ・ピラティス」(52.1%)、「ダンス」(69.6%)においては、【楽しみ、気晴らしとして】への回答率が最も高い結果となった。
他方、「ゴルフ」実施者の開始のきっかけを見てみると、【周囲の人がやっているから】(50.3%)と、【周囲の人に勧められたから】(50.3%)という理由が、同率で最も多く挙げられた(表)。
 
このように、若い女性に人気とされているスポーツ種目のうち、ゴルフだけが自らの意志というよりも、外からの働きかけの要素が強く、他の種目に比べて特異な結果が得られた。
 
その他(自由記述)で挙げられた開始のきっかけにおいても、以下の様な内容が挙げられ、これらの記述からもその違いが見て取れる。
 
[その他(自由記述)]
・ゴルフ:「仕事上の付き合いから」(32歳)、「親のすすめ」(39歳)
・登山:「富士山に登るため」(30歳)、「美しい自然に身を置けるから」(31歳)
・ランニング:「費用がかからずいつでもできる」(38歳)、「雑誌・書籍で興味を持った」(37歳)
・ヨガ・ピラティス:「フリーペーパーで見て」(28歳)、「趣味さがしとして」(25歳)
・ダンス:「学生の時にハワイで見たフラにあこがれて」(39歳)、「スポーツクラブのスタジオレッスンでなんとなく入った」(33歳)
 
このように、「登山」、「ランニング」、「ヨガ・ピラティス」、「ダンス」を実施・継続する女性は、そのスポーツを開始したきっかけは【内発的な動機】であり、「ゴルフ」を実施している女性の開始のきっかけは、【外発的な動機】である傾向であることがわかる。

 

表:現在実施している運動・スポーツの開始・再開のきっかけ

                   (北ら(2015)を一部改変)

 

若い女性においてスポーツは「ブーム」だけでは定着しない

調査結果を見ると、どの種目においても「世間の流行だから」、また逆に「やっている人が少ないから」への選択肢への回答率は10%未満であった。つまり、ブームの種目であっても、ブームそれ自体をきっかけとして実践していないという意識が見られた。

外発的でなく「内発的な動機」でゴルフを開始できる環境づくりを

今回の調査では、ゴルフ実施者の多くは外からの働きかけにより、ゴルフを実施している割合が多く見られた。しかしながら、一般的に、外発的動機よりも「内発的動機の方が、質の高い行動が長く続く」とされている。 
若年女性ゴルファーの増加・定着を目指すには、まずこの点を改善できる「環境」を整えて行くことが必要だろう。つまり、自ら「やりたい」と希望したゴルフであれば、開始後も定着し離反率も少なくなるのではないか。

女性のゴルフ離反理由は「お金の問題」「仲間がやめた」「ゴルフ場が遠い」

筆者は、一度はゴルフに取り組んだが、辞めてしまった女性のメンタリティに迫る調査も実施している。「5年以上コースを回っていない45歳以上の女性400人」を対象に調査を実施した。 
その結果、『ゴルフをやめた理由』について、最上位に挙げられたのは「お金の問題」でった(図1)。具体的には、「プレーフィーが高い」「用具価格が高い」といった内容であった。 
『ゴルフをやめた理由』の男女差として、「仲間がゴルフをしなくなった」ことや、「ゴルフ場が遠い」ことが挙げられた点が女性離反者の特徴であった。

 

図1.離反理由の男女別比較

 

離反者の「再びゴルフをやりたい」への回答率は女性の方が高い

女性のゴルフ離反者の「再びゴルフをやりたい」への回答率が、男性離反者より高かったことも意外な結果であった。今後も継続的な調査や精密な検証が必要ではあるが「もう一度ゴルフをやりたい」と考えている女性が一定数存在し、その割合は男性より高い、という事実は1つのポイントだと思われる(図2)。

 

図2.再びゴルフをやりたいと思うか

 
 
 
参考文献

・北 徹朗(2018)ゴルフ産業改革論、株式会社ゴルフ用品界社、pp.40-45
・北 徹朗(2018)ゴルフ産業改革論、株式会社ゴルフ用品界社、pp.51-55
・北 徹朗ら(2015)成人女性における運動・スポーツの開始・継続・再開の要因に関する基礎的研究、SSFスポーツ政策研究第4巻1号(笹川スポーツ研究助成報告書),pp. 55-63

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北 徹朗 (きた てつろう) 武蔵野美術大学准教授 博士(医学)、経営管理修士(専門職)。
日本プロゴルフ協会経営戦略委員、ゴルフ市場活性化委員会有識者委員などを歴任。
現在、武蔵野美術大学身体運動文化准教授、同大学院博士後期課程准教授。サイバー大学 IT総合学部客員准教授、中央大学保健体育研究所客員研究員を兼任。
1977年8月6日生まれ、岡山県出身。